綾辻行人『黒猫館の殺人』(感想)【再読】

読書メーターの方も始めてみたけど最近読みのペースが落ち気味な新町です。

 

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今日は再読。綾辻行人館シリーズは特大ボリュームの「暗黒館」を除いて「びっくり館」までは全部読んでる(すなわち、暗黒館と現状最新刊の「奇面館」以外全部)。せっかくなので各館についてざっくり振り返ってみよう。

 

十角館…内容は忘れようがない。多分初めて読んだ叙述らしい叙述。むろん自分の中での評価も揺るぎないものだが、ことさらに「あの一行」のインパクトを喧伝する声が多くて、「××です」の後も何かあるんじゃないかと思って不必要に慎重にページをめくっていった記憶が

水車館…内容はほとんど覚えてないが、十角館とはまた違った本格路線で、衝撃のデビュー作と遜色のない満足感を覚えたはず

迷路館…よくシリーズで十角館と並び称されている印象。実際に読んでみてその世間の声に疑念は抱かなかったが内容はまったく覚えていない。

人形館…高校時代に読んだ時は「こんなのが読みたかったんやないんや!」となったけど、今改めて読んだらまた見方も変わるのかも知れない。

時計館…だてに上下分冊にはしてないなという感じで、十角館を凌ぐ満足感を得たはず。メイントリックに感服したんだと思う。でも恥ずかしながらその詳しい内容は覚えてない(こんなんばっかや)

びっくり館…話のあらすじしか記憶にない。館の雰囲気はなんとなく覚えているが。当時の自分が下した評価も推して知るべしか。

 

さて主題の「黒猫館」ですが、読んだのは2014年、高1の時ですな。たしかシリーズの順番を完全に無視して十角館の後に読んだ。理由は単純明快で、完全なる「ジャケ買い」(CDの方は買ったことないですけど)。新装改訂版以降の表紙を手がけてる人は綾辻さんの友人の画家らしいけど、それぞれの館にマッチしたテイストでなかなかいい味を出している。この黒猫館はタイトルだけじゃ中身がよくわからないのもあって、ついついイラストの瀟洒だけど得体の知れない館に惹かれて手を伸ばしちゃったのかな。順番を無視したせいで「鹿谷門実?十角館の時の人は?」となったのも今は昔。

 

今回は再読なのであらすじとか話の内容は触れずに、感想とこの本に対して思うことを簡単に書きます。

この「黒猫館」だけど、世間的な評価では館シリーズの大作と大作の間に挟まれた小休止的な作品という見方が強いっぽい。まあ実際のところ話のボリュームも物語のスケールも前後2作品に比べて小ぢんまりとしてはいるので妥当ではあるが、しかし僕はこの話がけっこう好きだ。

理由はいくつかあるにしても、極みつけはやはりメイントリック。ミステリー読みたての初読時は伏線を拾う努力を完全に放棄(実はこの姿勢自体は今も変わらない)していたわけだが、今回改めて読んでみて作者本人があとがきで語っている通りの異常なまでの伏線の多さに感心してしまった。でもどれだけ伏線が多くてもあからさまだったとしても、それを補って余りあるトリックのインパクトだと思うね。こういうのがいいんだ。現実離れしててもいいんだよ。ミステリーだけがそういう世界を創り出せるんだから。それとミステリーの王道の手法だけど、手記と現実世界の交互展開も上手い。そしてこの手法が僕は大好物だったりする。

 

 

 

 

 

(以下ネタバレ含む)

 

今回の再読まで氷川の殺人のくだりは完全に忘却していたのだが、まあやはりこれまでの5作品と比べるとチンケな印象は否めない。

しかし逆に割り切ってメイントリックのインパクトにステ全振りしてるからこそ、一つの物語として洗練された、まとまりのある作品に仕上がってるんじゃないかと思う。

あまり細かく書くとメイントリックに触れちゃってややこしくなるから避けるけど、結局のところ僕は黒猫館のすべてが好きということなんだろうね。

 

「ミステリーの神髄をコンパクトにまとめて、手軽に驚きを味わえる氏の隠れた秀作」という評価にまとめて『黒猫館の殺人』の再読感想を終えたい。

 


 

「暗黒館」挑戦のタイミングはここ何年もずっと伺いつつも踏み切れずにいる。上述の通り僕は館シリーズに関して記憶喪失を起こしすぎ(十角・人形も結末に至るまでの部分は相当あやしい)なので、暗黒館の手前までを復習し終えた後で挑戦とした方がタイミングもはっきりしてベストかも。